現役トレーダー・フッキーの「金融リテラシー養成大学」

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人間の脳は、そもそも投資に向いていないんじゃないか仮説

どうもこんにちは。現役のトレーダーで、どちらかと言うと投機家のフッキーです。
当ブログでは、現役のトレーダーとしての実感・経験・知識から、「金融リテラシーの向上」に役に立ちそうな情報・知識をアウトプットしています。
 
今回は「人間の脳は、そもそも投資に向いていないんじゃないか仮説」です。
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☆脳に従うと、期待値がマイナスになる取引をしてしまう?
 
色々と勉強している中の一つに行動経済学というものがあるのですが、その行動経済学を元にすると、人間は放っておくと期待値がマイナスとなる取引を行うようになる可能性が高いと考えています。
具体的には、確固たる作戦がないまま人間の脳の性質に従ってトレードをすると、「利益/回<損失/回」かつ「利益確率:損失確率=50:50」という結果になる可能性が高いということです。
 
「利益/回<損失/回」になる理由
まずは「利益/回<損失/回」について説明しようと思いますが、それにあたりここで簡単なテストをしてみましょう。
借金も何もない状態で以下の選択肢が与えられた場合、どちらを選ぶでしょうか?
 
①確実に100万円もらえる
②50%の確率で200万円もらえるが、50%の確率で何ももらえない
 
多くの人はおそらく①を選びますが、確率論的に言うとこの2つの選択肢が言っていることはどちらも同じです。(期待値はどちらも「100万円もらえる」)
 
次に200万円の借金をしていると仮定して以下の選択肢が与えられた場合、どちらを選ぶでしょうか?
 
①借金が200万円から100万円に確実に減る
②50%の確率で200万円の借金がチャラになるが、50%の確率で借金が減らない
 
この場合では②を選ぶ人が大半なのではないかと思われます。
これも2つの選択肢の意味合いは同じです(期待値はどちらも「借金が200万円から100万円に減る」)
 
何が言いたいのかと言うと、
 
「人は利益が出る場面ではリスク回避的になり確実なものを選ぶ傾向があるが、損失が出る場面ではリスク追求的になり不確実なものを選ぶ傾向がある。」
 
ということで、行動経済学ではこのことを「プロスペクト理論」と呼んでいます。
これを株式投資にあてはめて考えると、
 
「人は含み益がある状態ではその後の更なる利益という不確実性よりもその場での確実な利益を求めて利益確定する傾向があり、含み損がある状態では損失確定して確実な損失を出すよりもその後の好転という不確実性を求めて損失確定しない傾向がある。」
 
ということになります。
含み損が出ている状態でホールドするのはもちろんその後好転する可能性もありますが、逆にもっと含み損が膨らむ可能性もあり、確固たる根拠や作戦がない限りは「含み損からの好転:暗転=50:50」になります。
これがいわゆる「塩漬け株」が出来るメソッドになり、「確固たる作戦がないまま人間の脳の性質に従ってトレードをすると『利益/回<損失/回』となる理由」です。
 
 
☆「利益確率:損失確率=50:50」になる理由
 
次に「利益確率:損失確率=50:50」についてです。
これは、人間の脳が「自分の直感」を判断するする時には、経験した中でも良いことだけ覚えている「想起バイアス」と、自分の考えとは相反する事実を無視(もしくは忘却する)「確証バイアス」が働くことが原因です。
「確固たる作戦」がない時には「直感によるトレード」をすることになりますが、その時に脳内では「過去を思い返してみても、自分の直感はだいたいあたっている」という考えをしているものと思われます。
しかしその「過去を思い返してみても、自分の直感はだいたいあたっている」というのは「想起バイアス」と「確証バイアス」が働いて「過去に自分の直感があたらなかったケース」を省いてしまっている可能性が高いです。
 
例えば僕はNBAを観るのが好きなのですが、ドラフト指名される選手で「この選手はスターになる!」と感じる選手が毎年何人かいます。
そしてその選手が「予想通り」に活躍すると「やはりそうだったか!」という気持ちが生まれ、「自分の選手を見る目はだいたい正しい」と昔は思っていました。
しかし行動経済学を学んでバイアスという概念を知った時に、
 
「そう言えば、自分が『この選手はスターになる!』とドラフト時に感じた選手のうち、その通りに活躍した選手について『この選手はスターになる!という判断』をしたことは覚えているけれども、逆にその後ダメダメだった選手は自分が『この選手はスターになる!という判断をしたこと』は忘れている気がする。」
 
ということに気が付きました。
簡単に言うと「人間の脳は自分の正しさを証明する証拠はよく覚えているが、自分の間違いを証明する証拠はあまり覚えていない」ということだと思います。
なので「直感によるトレード」は長期的には「利益確率:損失確率=50:50」になる可能性が高いと考えています。
 
例を挙げると、短期的には「取引10回のうち9勝1敗=利益確率90%:損失確率10%」となっても、確率論的には「利益確率=90%であるとは言えず、利益確率=50%である可能性がある。」ということになります。
ちなみに「取引10回のうち9勝1敗」は確率論的に言えば、「5%有意水準であなたの直感による取引の利益確率は60%以上であり、1%有意水準ではあなたの直感による取引の利益確率は50%以上であるとは言えない。」ということになります。(5%有意水準と1%有意水準のどちらを選択するかはその人次第。)
仮に5%有意水準を選択して「利益確率:損失確率=60:40」だとしても、よほど意識していない限り人間の脳の生理に従い、「利益/回<損失/回」となる可能性が高いです。
そしてその場合は「利益/回:損失/回=1:1.5」であると期待値はゼロなので(利益確率60%×1+損失確率40%×-1.5=±0)、損益トントンとなり、「利益/回:損失/回=1:1.5以上」となると期待値がマイナスになって損失が出るので、むしろ今までと逆方向に賭けた方が利益が出るということになります。
 
ちなみに「利益確率:損失確率=90:10」だった場合は損益トントンになるのは「利益/回:損失/回=1:9」なので、「利益/回:損失/回=1:9以下」に出来れば期待値がプラスになります。
ただその時に問題なるのは「利益確率=90%の統計的有意さ」になります。
取引回数ごとに「統計的有意に利益確率=90%」となる試行回数と利益数を示すと以下のようになります。
 
取引回数:100回
利益数:97回(1%有意水準で利益確率=90%)
利益数:96回(5%有意水準で利益確率=90%)
 
取引回数:1,000回
利益数:930回(1%有意水準で利益確率=90%)
利益数:920回(5%有意水準で利益確率=90%)
 
つまりは「取引100回のうち97回利益を出した」もしくは「取引1,000回のうち930回利益を出した」とするならば、そのやり方は「利益確率:損失確率=90:10である可能性が高い」ということになり、それ以下の数値だったらば「利益確率=90%以下である可能性がある」と思っておいたほうが無難ということになります。
 
「直感による取引」はコイン投げと同じようなもので、コインが歪んでいなければ試行回数を重ねていくと「表:裏=50:50」となります。
個人的には「株のセンスがある人間などいない」と思っており、歪んだコインを投げるためには「エビデンスに基づいた、確固たる作戦」が必要だと考えています。
「株に対する自分の直感は概ね正しい」と思っている人がいたら要注意です。
それこそ「株に対する自分の直感」を逐一記録に残していて定量的に把握出来るのならば話は別ですが、おそらく大半の人は「過去に直感があたったことだけ覚えていて、外れたことはほとんど忘れている」という可能性が高いです。(そして仮に統計を取ったとしても50:50になっている可能性が高い。)
そして「『株に対する自分の直感』を逐一記録に残していて定量的に把握出来ている人」はいないと考えているので、「確固たる作戦がないまま人間の脳の性質に従ってトレードをすると、『利益確率:損失確率=50:50』になる可能性が高い」ということになると考えます。
 
 
☆まとめ
 
色々とゴチャゴチャと述べてきましたが、言いたいことを一言でまとめると、
 
「直感や感情でトレードをすると期待値がマイナスになってしまうので、トレードをする際には直感や感情に左右されない方法を模索した方がベターな気がする」
 
ということです。
もちろん僕も人間なので上記の「プロスペクト理論」「想起バイアス」「確証バイアス」にはよく引っかかるのですが、「気を抜くとそれらに引っかかって直感と感情でトレードをしてしまう」という意識を常に持つことで、今のところ何とかやれています。
「自分のやり方・考え方が正しい」と言うつもりはなく、あくまでも「なぜ自分は投資で損をしているのだろう?」と悩んでいる人がいたら「参考程度にこういう考え方もあります」という感じです。
なので参考なりそうなところは参考にして頂き、そうでないところはカットして頂き、自分なりの「この方がまだいいんじゃないか?」という方法を見つけていって頂ければと思います。